猫を起こさないように
日: <span>1999年3月8日</span>
日: 1999年3月8日

G3(1)

 「(台本を会議室のテーブルに音高くたたきつけながら)どいつだ、脚本を元に戻しやがったヤツは! 融合なんてタルいこと書いてんじゃねえ! 俺が極太マッキーで性交にしろと修正しといたろうが!」
 「緋口さん、私たちはこれ以上あなたの暴走を認めるわけにはいかないんだ。これ以上やったら、G3は怪獣映画じゃなくなっちまう…!!」
 「はァン? なにいまさら眠たいこと言ってんだ、伊東。今回のガメラは怪獣映画の名前を借りたポルノ映画なんだよ! 俺たちは新しいガメラ神話を造ろうってんだぜ? 性的なイメージ無しで神話が成立すると思ってんのかよ!」
 「(吐き捨てるように)あんたのはやりすぎなんだよ」
 「(伊東の襟をひっつかんで)ンだと、この野郎。もういっぺん言ってみろ!」
 「やめてください、二人ともやめてください! もうクランクインしてしまっているんですよ! これ以上方向性の定まらないまま、作品を迷走させてしまっていいと思ってるんですか! ここまできたらもう僕たちだけの問題じゃ済まされないんです! 二人とももっと大人になって下さい!」
 「バカヤロウ! クリエイターが無難な安定を求めてあとに何が残るってんだよ! そんなに納期や世間様が気になるなら、最初からサラリーマンやってりゃいいだろうが! …最初にあった前多愛とイリスとの濃厚な交接シーンが丸々カットされてるのはおまえの仕業だな、兼子。誰がこんな眠たい伝奇話を60分も見たいと思うよ? どんな男も濡れた異生物の触手が前多愛の未発達な身体の上を這いずり回る60分のほうを積極的に過ごしたいと思うに決まってんだろうが!」
 「(悲鳴のように遮って)やめて下さい! 僕の愛ちゃんをそれ以上汚すようなことを言わないで下さい! だいたい幼体イリスのあからさまなチンポみたいなデザインだって、緋口さん、あなたのゴリ押しで無理矢理決定させられてしまったんだ! もうこれ以上僕たちのG3をかき回すのはやめてください! (涙ぐみながら)これじゃ、これじゃ愛ちゃんがあんまり可哀想だ…」
 「お前の勝手な童女趣味から来る私情を仕事に持ち込むんじゃねえよ。幼体イリスが粘着質の液体の大量に付着したチンポ状の頭の先端を前多愛の発達していない胸元にすりつけるシーンや、イリスの繭に取り込まれた前多愛が粘着質の液体まみれでドロドロになるシーンだってそうだ。誰が服着せろってったよ、アァ? 最初に意図した男の淫液の暗喩性が薄れるだろうが! 前多愛が彼女自身の淫水を暗喩する大量の雨に激しく打たれるシーンで、衣服を透けないようにCG処理しやがったのもさてはお前らの差し金だな? あんなあからさまなリアリティの無さを目の肥えた最近の観客が許してくれると思ってんのかよ!」
 「私たちは前多愛陵辱映画を作りたいんじゃないんだ! あなたの言っているのはガメラじゃない! それはガメラじゃないよ!」
 「(煙草の煙を吐いて二秒ほど沈黙。静かに)へぇ、おまえらガメラって何だと思ってたわけ? まさか亀の怪物とか思ってんの? アハハハハ…(急に激昂してテーブルを殴りつける)チンポに決まってんだろうが! ガメラはチンポの化身なんだよ! そうさ、ガメラもチンポ、イリスもチンポ! 二大チンポが前多愛というロリータを巡って欲望を吐きちらすっていうのが今回のテーマなんだよ! 先にツバつけられて怒り狂ったチンポ・ガメラがチンポ・イリスにやる復讐劇なんだよ! クライマックスで巨大なふたつのチンポをブチこまれて破壊される京都駅ビルは前多愛の処女性の崩壊を象徴してんだ! 割れる無数の装飾ガラスは前多愛の処女膜そのものなんだよ! 最後に頭を左右にふりながら――亀の頭、まさに亀頭をさ!――俺たちの欲望の量に正比例する火勢で炎上する京都をねり歩くガメラは、前多愛の処女性という生け贄をもって初めて、新時代の男性性の守護者として、新たな神話として昇華されるんじゃねえか!」
 「狂ってる…狂ってるよアンタ…」
 「こんな脚本を通したら、愛ちゃんの未来を奪うことにもなるんだぞ! 男の欲望に蹂躙されつくして汚れてしまったアイドルなんて、いったいどこのまっとうな番組が使ってくれるっていうんだ……あぁ~んあんあんあん。愛ちゃぁん、愛ちゃぁぁん」
 「バカヤロウ! 役者が次回作のことを考えて力をセーブしてどうするんだ! 明日を考えない捨て身こそまっとうな職につけないやくざ者の武器だろうが! 前多愛の未発達な清らかな裸体が無惨に蹂躙される様をこそ、観客は見たいと思ってるんだろうが! そして観客の望みをかなえてやるのが俺たちクリエイターの仕事じゃなかったのか、違うのか!」
 「あんたの強権な理想論はもうたくさんだ…おい(合図を受けて屈強な大道具の人間が緋口を取り囲む)」
 「待てよ、おまえらだって前多愛が異生物のほとばしりを受けて『イリス、熱いよ…』とうわごとのように言うのを聞きたいと思うだろうよ。待てよ。待てったら。ちくしょう、くそったれどもめ、くそった(会議室から引きずるように連れられていく)」
 「あぁ~んあんあんあん。愛ちゃぁん、愛ちゃぁぁん」